夜の闇があたりに侵食を果たし終えた時間帯
いつもの道を走る車。相変わらずなんの会話もない時間
一瞬だけ躊躇ったものの、リザの言葉を信じて見ることに、する
「ハボック小尉。たまには一緒に食べない？」
「いや、オレはこのあと用事あるんで･･･大佐の弁当は、ちゃんと持ってきてますから」
困ったように笑って、いつものように断られる
また、断られた･･･
悔しいような負けたような、なんともいえない心境に顔を歪める
「毎日毎日、いったい何が急がしいっていうの。」
「いや、だから･･･」
尚も食い下がらない私に、困り果てたハボックの顔がバックミラー越しに見える
しかし、そんな顔をしても、許してやらない
「たまには酒の相手でもしてほしいんだけど？少尉」
「あの、でもっすね･･･」
首を傾げて、笑顔ですごんでみせる
う。と返答に困ってしまう少尉に、後一押しとみた
「大左命令、と、言わすつもり」
「―――ノー。サー...」
無粋な、と顔を歪めて笑うと、とうとう折れたハボックは躊躇を見せたもののYes、と返事をくれた
「シチューが食べたい」
「･･･弁当は、」
「半分こで」
家の中にはハボックとロカロが随時かい出ししてくれているので材料に不足はないと思う
食べたいものを言うと、非難がましい目で言われた一言にもちろんを付け足した
だって、彼の作るものはなんだって美味しいのだ
そうこうといっている内に、家の前に車が止まり、運転席から降りた少尉がドアを開けてくれる
いつもは此処で引き返すハボックも、約束を破るつもりはないのか一歩後ろを付いて玄関へ
にやける顔がどうしても止まらない
久しぶりに、誰かと食べる
･･･っていっても数日前にはロカロに付き合ってもらったし、そのちょっと前にはリザと馴染みの店に飲みにいったので、正確にはハボックと、だが。
部屋に入ってリビングの椅子に上着をかけると、キッチンへ向かうハボックを追いかける
冷蔵庫の中身と鍋を用意していく手際のよさに感心するばかり
「手伝おうか？」
「とりあえず、テーブルの上の紙類やら本やらカップから片付けちゃってください」
てきぱきと指示
テーブルを振り返ると確かに散らかっていて、まったく逆転してしまった立場にいえっさー、と片言で指示に従った


「終わったぞ、あとは？」
「いいえ、あとは無いんで着替えてきて下さって結構ですよ」
ひょこん、と人参をぶつ切りにしていく手際のいい手元を眺めながら問うと、そう返される
そういえば服が汗臭い。
デスクワークといっても今日は視察で町を回ったから。汗でベタベタ･･･
「シャワーも浴びてきていい？」
「別にいいっすけど、ちゃんと髪乾かして服着てきて下さいね」
「･･･ハボックは私の母親か？」
クスクスと笑っていうと拗ねた顔の彼がコチラを恨めしそうに睨んで、ペチッと額をこつかれた
「変なこと言ってんと、早く言ってきてください。先に全部食べちゃいますよ」
「大丈夫だよー」
キッチン手前で足を止めて、怒ったままの彼に微笑んだ
きょとんと首を傾げた彼の顔に満足して、付け足す
「うちの大型犬は、そんなひどいことしないから。」
ひらひら。 そう手を振って、サニタリーへ足を向けた
(なんともいえない、情けない顔をした彼にはまったくもって気が付かずに。)

「ありがとう、お陰でさっぱりした」
「よかったっすね。もう出来るんで、座ってまっててもらえます？」
此方を振り返ってにっこり笑顔でそういうハボックに、それは悪いとキッチンへ入る
覗き込んだシチューのいいにおいをかぎながら、即席のシチューだと説明を聞き、それでも楽しみだと笑う
手伝うことはと問えば、じゃあ深皿を、というので棚から取り出した
「それと大皿、･･･と、スプーンと、」
「あ、あとサラダ皿も下さい」
足りないだろうと付け加えたモノに、彼が思い出したように告げたメニューにあれ？と手元を見るといつの間にか出来ていたサラダをみて驚く
弁当の中身もいつの間にか暖めなおされ、手直しされ、既に勝手に出された違う皿に盛り付けられてるのをみて、感嘆するばかり
「ハボック、此処に置いておくから」
「りょーか、っ！？」
とりあえず皿を彼の横において、出来ていた皿に手を伸ばそうとするが、
どうやら予想外の手だったようで驚いた彼の声が真上から聞こえる
なにを驚くことがある、と半ば反射であげた顔
振り向いた彼の顔がすぐ傍にあって、空色の瞳の中に自分が居て。その吐息さえも感じられる距離
もう少し、あと、もう少しだけ近づけば触れ合いそうな･･･――
時間が止まったみたいに動けない
心臓の音が、耳のすぐ傍で聞こえる気がする

ガシャン！

「「　！？　」」
「すんませ･･････っ」
「ッだ、大じょう、ブ･･･」
盛大に響いた音がやっと時間を正常に戻す
どちらも真っ赤に染まった顔を誤魔化すように、いつものように振舞った
しゃがみ、片付けてしまおうとした手を止められる
「切りますよ」
「･･･」
いつもならばそのまま練成陣でも描いて直してしまうが、今回は暖め直した料理から全部ひっくり返ってるのでそうも行かない
気まずい沈黙を残して手を引くと、ハボックは勿体ねぇとか呟きつつてきぱきとソレを集めていった･･･

（されても構わなかったのに）

なにを？
頭の中に浮かんだ台詞に、自問自答する
モノタリナイ
･･･物足りない？何が？なんで？
あのまま、もっと近づいてしまいたかった･･･、
それは、あのまま近づいて、キス、したかったって、･･･？
そんなまさか。
唐突に往き付いた答えに、口元を押さえた
フラッシュバックのように昼間のリザの言葉が脳内を駆け巡る
岡目八目って、そういうこと？
友人とは違うって、私がハボックを、好き、だから？

････いつか、ら？


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書き出せば書き出すほど展開が変わっていく謎
動かしたいように動いてくれない主人公達･･･
09060912
恋になる前に十題：リライト